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みんなのアケメネス朝ペルシア

みんなのアケメネス朝ペルシア

風呂場のジョン(連載中)

風呂場のジョン





第一章  米     鍋敷き      米



今日も風呂場は湿気ていた

ジョン「風呂場なんだから、湿気てたっていいじゃないか。なにが不満なんだよ?」

ナベシキ「アンタは固体だからいいけど……布はね、カビが生えやすいのよ!」

そのうえナベシキは、湯垢で汚れていた




ナベシキが転職したのは、一ヶ月前だった

そのときの彼女は『澤田おばあちゃん』に編まれたばかりのピチピチギャルだった

『澤田おばあちゃん』は言った


おばあちゃん「あなたはね、毛糸で編まれた特別なナベシキなのよ」

ナベシキ「えええ毛糸かよ…!?てかアタシ、鍋敷きなんてマジカンベンなんだけど」

おばあちゃん「……いいかい、あなたの本当の仕事はナベに敷かれることじゃない……   …私の孫を幸せにするためなの」



そうしてナベシキは、孫の『澤田あおい』の元にプレゼントされたのだった





ナベシキ「大体、アイツに問題あんだよ!!!」

ジョン「あいつって………ご主人か?あの人フェイスは美人なのに、性格はマッドだもんな」


ナベシキ「ずいぶんたつけど、まだゆるせないの……アイツにはね、おばあちゃんの気持ちなんかより、スポ○ジボブの方が大切なのよ……!」


ジョンは少し困った。スポンジ○ブは、百円ショップ時代からの友だちだったのだ


ジョン「ボブだって立派な鍋敷きだよ。変なキャラが付いているけど、木製だからしゃぶしゃぶにも耐えられるし…………君だって、あの時は仕方ないって言ってたじゃないか…」



ナベシキ「あの時は………」

ナベシキから、一粒の水滴が落ちた


ナベシキ「納得してたの………毛糸のナベシキとして…………あの人がおばあちゃんの気持ちを受け止めたうえで、大切にしまっておくものだと思っていたから…」


ジョン「君は綺麗なナベシキだったね。大切な役割を終えた人間のようだった」


ナベシキ「でも違った……………アイツは毛糸だからって、タワシとして使い始めたのよ!!!!」


ジョン「…………主人も、できるだけ使ってやろうと思ったんだよ。落ち着けって…」


ナベシキ「ふざけないで!…なんで毛糸なのか分かってるの!!?」


ジョン「もうしらねぇよ!ババアだからじゃねぇの!?」



ナベシキ「毛糸はね、使う人を想いながら編むものなのよ………。だからマフラーにも、手袋にも、帽子にも…使う人のために、何にだってなるの」


ジョン「………」


ナベシキ「おばあちゃんは、アイツに温かいご飯を食べさせたかった…………だから、アタシはナベシキなのよ」



ジョン「…だからナベシキか……君は、仕事に生きがいを求めすぎなんだよ。まぁ、需要の変わらない僕が言うのもなんだけど」


ナベシキ「それでもあの仕事は、アタシだけのものだったのよ」






第二章  米       蛇口        米  



「やめて、流さないでぇえええーーー!」


スネグチは叫んだ。  …それはもうほとんど、泣き叫んだのだった。






彼女はいつも、夜八時頃に子供を産み始める。


この出産は約15分かけて行われるが、そのためには、オケロフとナラオの協力が欠かせない


ナラオが子供達に体温を与え、オケロフがその子供達を抱きとめるのだ




そして、今の時刻は11時40分


毎日必ず訪れる、日常的な別れの始まりだった


ジョンを始め、ナベシキも、ラシブも、オッケーも、これには慣れっこになっていた


ただ一人、スネグチを除いて……





「イヤ……私…堪えられない…………」

スネグチは、冷水をピチョピチョと垂らしながら、クビを背けた



「いい加減にしろよ……」

あきれ顔のオケロフが言った


「僕が流しているのは、ただの水だろ?……君の子供じゃないよ」



スネグチには、残酷な一言だった



「確かにこの子達は空から来たわ…。でも私はね、この子達を産んでいるのよ!」



「バカ言ってるよ……しかも、『この子達』だって?水っていうのは、数えることができないんだよ。知らないのかい?」


スネグチは、クビをガキュガキュと振った


「分かってるわよ……でも、この子達は私の子供だと思うの………。だって、私の中から産まれてきてくれるんだもの…」



そのとき

ゴキュッ


っという音と共に、オケロフの穴から最後の水が抜け落ちた


「空から降ってきたって言うんだな……」

オケロフはつぶやいた 


「だったら簡単な話じゃないか。大体、その水がお前の子供ならどうして俺に預けるんだ。捨てられるって分かっているのに」


「そんなの……TOTOの設計者に聞きなさいよ!私だって、捨てたくて産んでるんじゃないのにーー………!!」



オケロフはため息をついた


「だから、どうして産むのかって聞いてるんだよ……。捨てたくないのなら、どうして水を流すんだ?」



オケロフは「それはな」と、スネグチの答えを遮った



「水は絶対に流れていくものだからだ。お前は『捨てる』なんて言い方をしたが、実際はそうじゃない、むしろ空から降ってきた水を俺に産み落としたあと、海を産み出しているんだ。」



スネグチは、冷えた鉄パイプのように笑った


「バカ言わないで…分かってるのよ。私があの子達を産み出すのは結局、人間の汚いものを海に流すためよ。海を産む?あんたバカァ?」




オケロフはかまわず言い続けた


「それでもお前の流した水は、必ず海へ行く。たしかに汚いかもしれないが、一種の微生物には歓迎されるんだ。いいか、歓迎されるんだぞ!!?」



スネグチはもう冷え切っていて、ただ黙っていた


「いつの日かお前の流した水は、お前だけのものではなくなる。お前が流した水を『子供』だと言い張るなら、その時の水は『大人』になるはずだ!…だからお前が産んでいるのは………」




スネグチは言った


「なんでもかまわないわ。私は、私の子供がいなくなるのが悲しいだけよ」



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